「護衛を男1、女1、メイドさんを1人でお願いします」
俺の提案に、護衛の責任者は顔をしかめ、即座に言い放った。
「それは無理です!許可できません!」
その声には、一切の妥協が感じられない。
「でしたら俺、一人で行くので付いてこないでください。ちょっと、目立ち過ぎなので……」
俺はきっぱりと言い放った。
「平民服を着て平民を装ってるのがバレバレになってるし……平民が護衛を付けてる訳が無いし。お金持ちや重要な人物だから護衛を付けるのですよね? 今回の行動で顔を覚えられてしまいますよ?」
俺の言葉に、ミリアは表情を硬くし、護衛の責任者を鋭く睨みつけた。その視線は、まるで氷のように冷たい。責任者はゴクリと唾を飲み込んだ。
「一応、今日は店舗を調べる予定だったからさ、ちゃんと調べないと。昼食と色々と話しが出来て楽しかったよ。ありがとね」
俺は、これ以上揉めるのを避けるように、ミリアに柔らかく話しかけた。
「そうですか……ううぅ……」
ミリアは悲しそうに眉を下げ、ウルウルと瞳を潤ませながら俺を見つめてきた。その瞳は、まるで今にも零れ落ちそうな露を含んでいるようだ。
「あの……次は、いつお会いできますか?」
「明日も町の中にいると思うけど……ドレスを着て護衛を大量に連れて会いに来ないでくれるかな。お金持ちの知り合いが居ると思われて店舗の価格を上げられそうだし」
俺がそう言うと、ミリアはパッと顔を輝かせた。
「分かりましたっ! むぅ……」
彼女は不満げな声を漏らし、再び警護責任者を睨みつけた。責任者はビクリと肩を震わせた。
「ちなみに、もし会いに来られるなら護衛とメイドさんも普段着でお願いしますね。平民でメイドに護衛を連れて歩いてる人いないですし」
「はいっ。分かりましたわ」
ミリアは素直に頷いた。
「じゃあ、またそのうちに」
俺は手を振って玄関を出た。ミリアは笑顔で手を振り返してくれて、可愛らしい感じだった。しかし、玄関の扉が閉まると、途端にミリアが怒って騒いでいるのが聞こえた。
俺は聞こえてないことにしようと決めた。ミリアって恐いのね。っていうか貴族様だし町の警備兵にも怒ってたし。
——謎の再逮捕とミリアの権威ミリアの屋敷から、しばらく歩いて商店街まで戻ってきた。屋敷から商店街までは歩いたが、転生した時の山道じゃなかったので歩きやすくて良い運動になった。商店街の賑やかな声が耳に届いてくる。
商店街に辿り着くと……。
「うっ」
警備兵に顔を覚えられたようで、俺に深々とお辞儀をされた。まあ良い方に考えよう。問題が起きても融通が効くかもな?
異世界といえば剣と魔法の世界! だよな? ……魔法が無いのならば武器でしょ! ってことで、買う気はないけど興味はあるので武器屋に入ってみた。店内には鉄の匂いが漂っている。
「おおぉ! すげぇ……本物の剣じゃん! カッコいい~!」
俺は目を輝かせた。
「俺も欲しい!!」
壁には斧に弓にナイフ、槍……様々な武器が並べられている。店の隅には、中古品なのか樽の中に大量の剣などが入っていた。
剣が1本で銀貨20枚らしい……中古で5万円か……うぅーん、ちょっと高くない? そんな物か……モンスターを倒してお金が稼げるんだしな。
張り紙がしてあって『購入時に無料でメンテナンス致します』と書かれている。へぇ……どこまでメンテナンスしてくれるのか不明だけど。
でも中古品に命を預けられないよな……普通。まあ低級で素手でも倒せそうなモンスターなら剣の練習で使えて良いけど……それに5万かぁ……。
実践で戦ってて折れたら終わりだぞ……こわ。
店内を一通り見て、目立たなそうな剣の形を覚えておいた……あとでアイテムで出してみよっと。
次に家具屋、服屋、薬屋を見て回った。それぞれの商品の価格を記憶に留める。
最後にアクセサリー店に入り、煌びやかなアクセサリーを見ていると……。
警備兵に肩を掴まれた……「え?」
はぁ……またかっ!!
子供がアクセサリー店に入るのが怪しかったのか、警備兵を呼ばれてしまい、そのまま連行されてしまった。通りを歩く人々が、好奇の目でこちらを見ている。警備兵の詰め所に連れてこられた俺を見て、警備兵のお偉いさんが慌てて駆け寄り、青い顔で深々と謝罪をしてくれた後、すぐに解放してくれた。
一応、身元保証人がお貴族様だしな。でも、これだけ警備がシッカリしている証拠で治安は良さそうだな。
「すみません。何度もお邪魔して……」
俺は申し訳なさそうに言った。
「こちらこそ、すみません。今回の事はどうか……その内密にお願いします!」
お偉いさんは困った表情で顔色も悪い。大丈夫か? その額には脂汗が滲んでいる。
「内密にって? 誰に?」
「ですから……その……」
お偉いさんが言葉を詰まらせた、その時だった。
「ユウヤ様っ!」
ミリアが平民の服を着て、心配そうな表情で慌てた様子で詰め所に入ってきた。彼女の息遣いが荒い。ミリアがお偉いさんを一瞬睨むと、兵士達の様子も一瞬で変わり、詰め所の中が静まり返った。ピリッとした空気が張り詰める。
やっぱり平民の服を着てもバレバレですね……ミリアさん。
しかも、ミリアは一言しか声を発してないのに静まり返ったし。
「もう少し訓練が必要ですわね」 ミリアは冷静に、しかし厳しすぎない口調で言った。「は、はい。戻り次第、さっそく訓練をしたいと思います」 彼は気を引き締め直し、ミリアの後方に控えて護衛任務に戻った。 ――うわ、落ち込んでるのに……でも、仕方ないか。 自分の護衛が負けたってことは、ミリアの安全に関わる問題だし。 弱い護衛だと思われたら、狙われる可能性もある。 ……うーん。護衛には悪いことしたかな。 でも俺だって、守ってほしかったぞ!? ミリアの護衛って、俺の護衛でもあるんじゃないのか?「ミリアの護衛って……俺も護ってくれるの?」 俺が尋ねると、ミリアは当然のように微笑んだ。「当然ですわ。だって、ユウヤ様はわたくしの婚約者ですもの♡」 ――そっか。そう言ってもらえると、ちょっと安心する。 でも――「……俺、薬屋なんだけどなぁ」 ぼそっとつぶやいた声は、ミリアには届いていないようだった。「ミリアの護衛って……俺も護ってくれるの?」 俺が尋ねると、ミリアは当然のように微笑んだ。「当然ですわ。わたくしの婚約者ですもの♡」「そっか……良かった」 ――ちょっと安心。やっぱり俺も対象に入ってるんだな。 ……と思ったのも束の間。「ですが……ユウヤ様に護衛は必要ないと思いますけれど?」 ミリアは首をかしげながら、不思議そうに言った。「え? あるって。普通にあるから」「でしたら――わたくしがお護りいたしますわっ♪」「え? ミリアが?」「はいっ!」 ミリアは胸を張って、誇らしげに言い切った。「…&hellip
――その時だった。試合の最中、デューイが鋭く踏み込み、ミリアの護衛の隙を突いた。 木剣の腹で相手の剣を叩きつけるように打ち込むと――バキィンッ!!護衛の木剣が真っ二つに折れた。そして、折れた剣の破片が―― まっすぐ、ミリアの方へ飛んできた。シュンッ! バキッ!! シューーーン! ――やばい! 間に合わない!?女性護衛が反応して動こうとしたが、わずかに遅い。 俺の隣に座るミリアに、折れた木剣の破片が一直線に向かってくる。俺は咄嗟に、まだ手にしていた試合用の木剣を構えた。 ――いや、正確には“構えるフリ”をして、バリアを発動。透明な防壁を斜めに展開し、飛来する破片を――ガンッ!空中で叩き落とした。「危ないっ!」俺が声を上げた直後、ミリアがびくっと肩を震わせた。「きゃぁーっ! 危ないですわっ! もぉ……!」ミリアは驚きと怒りが入り混じった表情で俺を見つめたが、すぐに目を潤ませて微笑んだ。「ユウヤ様、ありがとうございます……また、わたくしの命の恩人ですわ♡」その言葉に、俺は苦笑しながら木剣を下ろした。 ――いや、ほんとに危なかった。その瞬間、王族席の後方から慌ただしい足音が響いた。「ミリア様! ご無事ですか!」「ミリア様ーっ!」国王とお偉い様方が、青ざめた顔で駆け寄ってくる。ミリアはそんな彼らに、にこりと微笑んで答えた。「大丈夫ですわっ♪ ユウヤ様に守っていただきましたの♡」俺は立ち上がり、軽く頭を下げながら言った。「事故ですし、気にしなくても大丈夫ですよ。 十分に護衛もつけていただいてますし」 ――まあ、俺がいなかったらどうなってたか分からないけどね。 でも、騒ぎを大きくしたくないし…
――おお、始まるのか。 これはちょっと楽しみかも。 俺は闘技台から降り、ミリアと並んで観客席へ向かった。 ミリアは俺の腕にぴったりとくっつきながら、にこにこと笑っている。「ユウヤ様と並んで観戦……まさにデートですわね♡」「……うん。まぁ、そういうことにしとこうか」 ――剣の試合観戦でデートって、なんか不思議だけど…… ミリアが楽しそうなら、それでいいか。 さっき俺を裏切って、護衛任務を回避した男性護衛―― その彼を、ついに戦わせることに成功した。 ……というか、ミリアからの“直命”を受けたら、断れるわけがない。 彼は観念したように静かに頷き、すぐに戦闘モードに入っていた。 一方のデューイはというと、俺との試合は一瞬で終わったし、 治癒薬でケガも完全に治っている。体力的にも問題なさそうだ。 そして、二人が準備を終え―― ――って、え? ちょっと待て。 なんで防具つけてるんだよ!? 胸当て、腕当て、脚部ガードまで、しっかり装備してる。 しかも、ちゃんとした試合用のやつだ。 俺のときは……木剣一本だったよな? 防具ゼロだったよな?「ねぇ……なんで防具つけてるの?」 俺は隣のミリアに、思わず尋ねた。「知りませんわ……」 ミリアは小首をかしげて、無邪気に微笑んだ。「俺のときは無かったんだけど……」「そうですわよね……何ででしょう?」 ――いやいやいや、マジで!? 俺のときは、王国最強の大隊長相手に、木剣一本で丸腰だったんだぞ!? ミリアはさらに、こてりと首を傾けて、にっこりと笑った。 ――うん。絶対わかっててやってるよね、それ。
――え? やっぱりこの人、王国最強だったのか……。 どうりで、ただの“強い人”って感じじゃなかったわけだ。 ミリアと同じような、言葉にできない“圧”というか、オーラというか……威圧感がある。「俺が勝てないわけだな。あのモンスターの群れを単独で倒すとは……」 デューイは苦笑しながら肩をすくめた。 そして、ちらりとミリアを見て――「その強さに、可愛い子を連れてるとは……羨ましいね~。 なぁ、嬢ちゃんのお友達を、今度任務で護衛に行ったときに紹介してくれよ。な?頼むよ」 ――その瞬間。 王様とお偉い様方が、同時に顔を引きつらせた。「なっ……!」 軍服を着た一人が、顔面蒼白になってデューイの肩を掴んだ。「バカ者っ!! 不敬にも程があるぞ!!」 その怒声が、闘技場に響き渡る。「し、知らなかったとはいえ……申し訳ございませんでした……っ!」 男は深々と頭を下げ、額を地面に擦りつける勢いで謝罪した。「……え? な、なんでそんなに怒って……?」 デューイが戸惑いながら視線を巡らせると、王様が静かに口を開いた。「デューイよ……その方は、――アイラシス帝国第一皇女、ミリア・アイラシス殿下である」「……は?」 デューイの顔から血の気が引いていくのが、目に見えて分かった。「お、お嬢ちゃんって……皇女殿下……!?」 彼はその場に膝をつき、今度こそ本気で頭を下げた。「し、失礼を……本当に、知らなかったんです…&hellip
俺は木剣を抜くように動かし―― そして、すぐに収める動作をした。 その瞬間、目に見えない“斬撃”が走る。 バリアを斬り飛ばすように放ち、相手に叩きつける。 男の体が、衝撃とともに吹き飛んだ。 ――一撃。 今度は、間を置かずに歓声が爆発した。「きゃ~っ♡ ユウヤ様~っ! また勝っちゃいましたねっ♡」 ミリアが両手を振りながら、王族席でぴょんぴょん跳ねている。 頬を真っ赤に染めて、目をキラキラと輝かせながら、まるで恋する乙女そのもの。 ――うん、君が一番うるさいよ。「……もう終わりですよね?」 俺は木剣を肩に担ぎながら、相手に声をかけた。「ああ。完敗だ……降参だ。剣が全く見えなかった……。 流石、あのモンスターを倒しただけのことはあるな……」 男は潔く膝をつき、深く頭を下げた。 ――ようやく、終わった。 俺は心の底から、そう思った。 だが……。吹き飛ばされた男は、驚くほど早く起き上がってきた。 ――え、もう立つの!? ていうか、近い近い! しかも、額から血が流れていて、顔が真っ赤に染まっている。 そのままズカズカと俺に近づいてくる。 ――ちょ、待って。怖いって。 さっきより迫力あるんだけど!? お願いだから近寄らないで!「ちょっと待って、これ使って」 俺は慌ててポーチから治癒薬を取り出し、男に手渡した。「飲めばすぐ治るから。……たぶん」 男は一瞬きょとんとしたが、すぐに豪快に瓶を開けて一気に飲み干した。 ごくっ、ごくっ、ごくっ――「おおぉっ!? これは……すごい!!」 男の声が闘技場に響き渡る。「美味いし、出血も止まったし、痛みも
今は空席だけど、俺たちじゃなくて他の冒険者だったら、たぶん王様も来てたんじゃないか? これ、どう見ても“冒険者の実力を見るための試合”だよな。 若い兵士が勝手に王城の闘技場を使えるわけがない。 普通なら練習場くらいが関の山だろ。 ――つまり、これは最初から仕組まれてたってことか。 そして、王族席には――「……おいおい」 ミリアが、当然のような顔でど真ん中に座っていた。 背筋をぴんと伸ばし、優雅に微笑みながら、俺に手を振っている。 ――うん。君だけは、まったくブレないな。「剣は? 木剣にする?」 兵士が訓練用の剣と木剣を両手に持って差し出してきた。「何でもいいぞ?」 俺がそう言うと、兵士は少し驚いたように目を見開いたが、すぐに木剣を差し出してきた。「じゃあ、木剣でお願い」 俺は木剣を受け取り、軽く振って感触を確かめる。 ――うん、悪くない。軽すぎず、重すぎず。 そして、静かに構えた。 観客席がざわつく。 その中で、ミリアだけが嬉しそうに手を組み、目を輝かせていた。「さっさと終わらせて、帰って休みたい」 俺は木剣を手に、ゆっくりと腰を落とした。 左足を半歩引き、木剣を鞘に見立てて、静かに構える。 ――居合いの構え。 観客席がざわつく。だが、対面の兵士はその意味を理解していないようだった。「こちらは、いつでも良いぞ!」 兵士は意気揚々と叫び、剣を振りかざして構える。 その顔には、勝利への自信がにじんでいた。 ――知らないんだな、この構えの意味を。 俺は静かに息を吸い、目を細める。 兵士が踏み込んでくるのを、ただ待つ。 そして―― 兵士が剣を振り下ろそうとした、その瞬間。 俺の体が、風のように動いた。 木剣が一閃。 まるで空気そのものを断ち切るような鋭い音が、闘技場に響いた。 次の瞬間、兵士の剣が弾かれ、彼の体ごと吹き飛んだ